インフルエンザワクチンのお話

前回はインフルエンザの治療薬について書きましたが、今回はワクチンについて書いていきます。打つかどうか迷っている人などはご参考にしていただければと思います。

ワクチンの効果について

おそらく皆さんが一番知りたいのはワクチンの効果ではないかと思いますが、漠然と「なんかそれなりに効くらしいよ?」と思っている人がほとんどではないでしょうか。時々「全く効果なんかない!」といっている人も見かけますが、実際のところをご紹介しようと思います。

が、その前に、一つ重要なことをお伝えしなければなりません。実は、今現在使用しているインフルエンザワクチンは、インフルエンザの感染を予防することはできないのです!これは程度の問題などではなく感染に対しては全くの無力です。はい。そういう意味では効果がないと言っている人もある意味正しいかもしれません。でも発症を予防する効果はあります。発症とはインフルエンザの症状 〜 具体的には発熱や咳や咽頭痛など 〜 が出現することです。つまり、「感染しても熱や咳が出なければ感染しなかったのと同じことだからセーフ!」というのがインフルエンザワクチンの理屈になります。釈然としない人もいらっしゃるかもしれませんがそういう事になっているので仕方がないです。感染自体を予防できるワクチンも開発中で、あと数年したら日本でも使えるようになりそうですが、とりあえず今の時点では「ワクチンの効果=発症を予防する効果」と思っておいて下さい。

では、その「発症を予防する効果」はどの程度でしょうか。ご存知の通り、インフルエンザは毎年「型」が変わるので、ワクチンも毎年その年に流行する「型」を予想して作られます。世界中の専門家が集まって予想するのですが、予想ですのでどうしても当たり外れができてしまい、ワクチンの効果も年によって様々ではあります。しかし、だいたい大人で40〜60%くらい、小児で20〜60%くらいと言うのが一般的なようです。

発症の予防に加え、重症化の予防効果もあるとされています。CDCによれば、インフルエンザワクチンを打った患者では、集中治療室への入院率を子どもで74%、成人で82%減らすことができたそうです。さらに基礎疾患のある小児の死亡を51%、健康な小児の死亡を64%減少させたとの記載があります。厚労省のQ&Aページでも、施設に入所している高齢者の死亡を82%阻止できたと紹介されています。重症化予防の効果はかなり高そうですね。

ワクチンの副作用について

効果の次に気になるのが、副作用の話ではないでしょうか。ちょっとWebで検索しただけでも、「ワクチンは危険だからうっちゃだめ!」というページが山のようにヒットするのも、副作用の関心の高さの現れかと思います。一般的には副作用といいますが、医学用語としては「副反応」が正しいため、以降は副反応として説明していきます。

確かに、残念ながらワクチンも医薬品である以上副反応のリスクは存在します。厚労省の報告(リンク先pdfです)によれば、2017年10月〜2018年4月までの間に、医療機関から約250例の副反応症例が報告され、そのうち死亡例は9例となっています。死亡例のうちワクチンの関与が否定できない症例は3例であったそうです。昨シーズンのワクチン供給量が約5000万人分だったので、率にして0.000006%になります。後遺症を残した症例は4例で、いずれもワクチン接種後に脳炎を起こした症例となっています。これら重篤な副反応が本当でインフルエンザワクチンと関連があるかどうかは意見が分かれるところで、CDCのサイトでは、インフルエンザワクチンは極めて安全であるとされており、重篤な副反応についてはギラン/バレー症候群という神経疾患に関連があるかもしれないとの記載があるだけです。

その他接種部位の発赤や腫脹、倦怠感や発熱と言った軽度の副作用が起こりえますが、通常その症状は軽く1,2日で改善することがほとんどです。詳しい情報を知りたい方はリンク先のpdfファイルをダウンロードして御覧ください。副反応を起こした経緯と専門家の意見を閲覧することができます。

平成29年度の交通事故死亡者数は全国で3694人だったそうですので、インフルエンザワクチンは自動車に乗ったり街を歩いたりするよりリスクが低いと言えるかもしれませんが、この確率を高いと見るか低いと見るかは人それぞれと思います。いずれにしても正確な情報を知っておくことは重要と思います。

ワクチンは何回打つのが良いか

日本では13歳未満の小児はインフルエンザワクチンを2回打つことが推奨されています。これは小児の免疫機能が未熟なため、1回の接種のみでは十分な免疫が獲得できないというデータが根拠となっています。しかし何歳から1回でも良いかというのは国によって解釈が様々です。例えばアメリカでは9歳以上になれば1回接種で良いとされており、しかも8歳以下の小児でも過去に2回以上インフルエンザワクチンを打った経験がある人は1回のみで良いとされています。

国によって医療費負担や医療機関へのアクセスの容易さが異なるので、どれが良いかと一概には言えないのですが、日本は比較的低料金で受けられアクセスも容易なため、2回打てる年齢の間は2回打つのが無難ではないかと思います。

ちなみに接種間隔について、日本では2〜4週間の間隔とされていますが、あまり間隔が短すぎると追加効果が現れにくいとのことで、最低3週間は開けたほうが良さそうです。2週間隔と3〜4週間隔を比較すると、後者のほうが免疫の付き方が良かったというデータがあります。先程のアメリカの例では、2回目を打つ場合は4週間以上開けなさいとされています。

卵アレルギーがある人は打ってはいけない?

インフルエンザワクチンを製造する際、ニワトリの卵を使用するため、卵アレルギーがある方は打ってはいけないとされている時代がありました。最近は技術の向上などもあり、ワクチンに含まれる卵由来成分は全身的なアレルギー反応を引き起こす量を遥かに下回っているため、卵アレルギーの方でも安全に接種できるとされています。ただし、卵アレルギーの有無にかかわらずワクチンで重篤なアレルギー反応を起こす可能性はありますので、100%安心というわけではありません。また、個人的な感想ですが、卵アレルギーがある方は接種部位の腫れや痛みといった副反応が強く出る印象があります。

どんな人がワクチンを受けるべきか

生後6ヶ月以上の方は、ワクチンおよびその成分に強いアレルギー反応を起こしたことがない限りは受けるべきとされています。特に、喘息を含めた呼吸器疾患を持っている人、65歳以上の高齢者、妊婦はインフルエンザ重症化のリスクが高いため接種が強く推奨されています。ただし、基礎疾患をお持ちの方は病状や使用している薬剤によってはワクチンを摂取できないことがありますので、必ず接種前に主治医に相談して下さい。

そもそもワクチンを受けるべきかという疑問もあるかもしれません。上に書いたように、インフルエンザワクチンは一般的に極めて安全であるとされてはいますが、接種後に(関連性は不明とはいえ)重篤な疾患で後遺症を残したり亡くなられる方がいらっしゃるのも事実です。しかし、ワクチンの効果で重症化を免れたり命が助かった人はそれよりも遥かに多いと考えられます。リスク(危険性)とベネフィット(利益)を比較した場合、ワクチン接種したほうがはるかに有益であると言うのが現在の多くの医師の考えです。