稲葉山

当院の前には広いテラスがあるのですが、周りに高い建物がないこともあって、眺めはなかなか良いです。

この写真はテラスから撮影した稲葉山です。かつて在原行平が因幡国司としてこの地に赴任する際、

 

「立ち別れ いなばの山の峰に生ふる まつとし聞かば 今帰り来む」

 

と歌ったそうですが、その「いなばの山」とはこの稲葉山のことなのだそうです。百人一首にも採用されていますし、飼い猫がいなくなったときにこの歌を書いた短冊を猫の餌皿の下に敷いておくと猫が戻ってくるとの言い伝えもあるそうで、かなり有名な和歌ですね。もっとも、この歌が披露されたのは赴任する前の送別会の席だったそうですので、行平はこの景色を見る前に歌を作ったみたいですが。

作られたのは西暦855年と伝えられています。今から約1200年ほど前でしょうか。おそらくこの景色も1200年前と変わりがないのでしょう。テラスは特に立ち入り制限などございませんので、お時間があれば一度おいでいただき、1200年前と変わらぬ風景を眺め、かつてこの地にいた歌人に思いを馳せてみるのはいかがでしょうか。

ちなみに、歌の現代訳は「これでお別れです。でも因幡の国の山に生える松のように「ここでずっと待っているよ」とあなたが言うならばすぐにでも帰って来ましょう。(出典:wikipedia)」だそうです。

・・・・思いっきり帰りたがってますね。いや、送別会中の歌だから行きたくもないのか。行平さん、べつに左遷されたわけではなくこのあと2年ほどで京都に帰って順調に出世しているようなのですけどね。今の感覚で行くと、本社勤めのエリートが出世のために2年間、新興国での海外勤務を命じられたみたいな感覚なんでしょうか。当時の貴族は、都の外は鬼が出る地だと半ば本気で信じていたそうなので、行きたくない気持ちはかなり強かったのかもしれませんな。地元民としては、来るのを嫌がって作った歌が名歌として後世まで残るというのもなかなか複雑な思いではありますが。

まあ、そんな歴史が感じられる眺めということで。

いつもながらうまくまとまらない文章ですみません。