小児に対する新型コロナウイルスワクチンについて

鳥取市でも7月20日より、中学・高校生に対する新型コロナウイルスワクチン接種の予約・接種が始まります。インターネットを中心にいろいろな情報が錯綜しており、接種したほうが良いかどうか迷っている方も多いと思います。今回は現時点(6月21日)でわかっていること・わかっていないことをご紹介し、子どもたちが接種するべきかどうか考えたいと思います。

その前に、一つお願いがあります。新型コロナウイルスワクチンを接種するかどうかは個人の裁量であり、ワクチン接種をしない人を非難してはならないのはもちろん、接種した人・希望する人に対しても誹謗中傷などは行ってはならないということをご理解ください。接種した場合/しなかった場合ともに現時点ではデータが少なく、以下の内容も数カ月後には変化している可能性が十分にあります。わからないことが多いと不安になるものですが、違う考え方の人に対して攻撃的になることは絶対にやめましょう。

中学・高校生はワクチンを接種するべきか

以下は私の個人的な意見ですが、まずは結論からです。現時点で、

  • 神経・筋疾患、心臓疾患、血液疾患、自己免疫疾患など、新型コロナウイルス感染で重篤化するリスクが高い基礎疾患をお持ちの中学・高校生は接種をおすすめします。
  • 今後部活の大会などで新型コロナウイルスの流行地へ出かける予定がある方も接種をおすすめします。
  • 高校3年生の方も、1月~3月の新型コロナウイルス流行リスクが高い時期に都会に出かける可能性が高いため、接種をおすすめします。
  • それ以外の、当面県外に出かける用事がなく、周りの大人がワクチン接種を受けた・受ける予定がある中学・高校生に対しては、しばらく様子を見てから接種を行ってもよいのではないかと考えています。
  • (7/14追記)もちろん、ワクチンの副反応リスクを理解した上で接種を希望される方は接種をおすすめいたします。

以下に、この考えの根拠となったデータをお示しします。

日本における小児新型コロナウイルス感染症患者の現状

日本小児科学会が作成している小児新型コロナウイルス症例のデータベースによれば、現時点(21年6月22日)で小児の新型コロナウイルス患者2121名のうち、集中治療室に入室した重症例は5例となっています。データベースへの登録は義務ではないため、全例把握されていない可能性はありますが、小児の重症例は非常に少数であることが予想されます。

また、同データベースによれば小児の感染経路は約70%が家庭内感染、10%が学校・保育園関係者となっています。つまり家族や学校・保育園で接触する成人がワクチン接種で感染を予防すれば、小児の感染リスクは現在よりもかなり低くできる可能性があります。

変異株は小児にも感染しやすい傾向があるとされていますが、流行4波以降も感染症者における小児の割合はやや増加した程度であり、慎重に動向を見極める必要があるものの今のところは過度に心配する必要はなさそうです。

日本において、小児の新型コロナウイルス感染症患者で後遺症がどの程度起こるかは、まだまとまった報告がなく不明です。一方海外では、小児が新型コロナウイルス感染の数週間後に、頻度は低いものの川崎病に類似した症状を起こし、高確率で重症化することが知られています。小児多系統炎症性症候群(MIS-C/PIMS)と名付けられたこの合併症は、海外では数千例が報告されていますが国内ではまだ数例にとどまっています。人種差が影響していると予想されていますが、今後ウイルス変異によって国内でも多発するリスクは有り、注意が必要です。

以上より、日本の小児新型コロナウイルス感染は重症化リスクが非常に低く、感染は主に大人からであり、直接ワクチンを接種するメリットは限定的であることが予想されます。

新型コロナウイルスワクチンの安全性

みなさんが最も気になるのがワクチンの安全性ではないでしょうか。新しい技術を用いて作成されたワクチンで、なおかつ緊急承認として不十分な治験しか行われていないような印象もあり、安全性に心配があるのはもっともなことだと思います。しかし、小児に使用が予定されているファイザーのワクチンに関して言えば、昨年12月にアメリカで承認されたのを皮切りに世界中で接種が行われており、副反応も厳しくモニタリングされていますが、今までのところ短期的な安全性に関して重大な懸念はないようです(アストラゼネカ製とジョンソン&ジョンソンのワクチンに関しては血栓症や血小板減少のリスクが否定できないとされています)。

もちろん、アナフィラキシーなどの重篤なアレルギー反応は一定の確率で起こるものであり、アメリカの報告では100万接種に対して2~5人の頻度でアナフィラキシーが起こるとされています。日本でもアナフィラキシーは報告されていますが、現在までにアナフィラキシーで亡くなった事例は報告されていません。

(8/9追記)厚生労働省によれば、日本でコロナウイルスワクチン接種後にアナフィラキシーを起こした症例は、後日の検証で確実にアナフィラキシーと判定されたものに限れば、ファイザーの場合100万件につき7〜30件程度とされています。アメリカの報告より高めですが、それでも一般的によく使用される抗菌薬や痛み止めでアナフィラキシーを起こす確率よりもかなり低くなっています(追記ここまで)。

また、アメリカ全体のワクチン接種はすでに3億回以上行われていますが、接種後に亡くなった方は5000人程度(0.0017%)とされています。これに関してCDC(アメリカ疾病対策センター)は、今の所ワクチンとの因果関係が証明された症例はないとしています。

一方、16〜19歳の男性に対しては、急性心筋炎のリスクが上昇する可能性が指摘されています。イスラエルからの報告では、この年代にワクチンを摂取した場合、3000~6000人に一人の割合で心筋炎が発症したそうです。CDCは心筋炎のリスクが確認された後も、現時点ではワクチンの有用性がリスクを上回るとして引き続きこの年代の小児もワクチン接種を行うよう勧告していますが、今後の情報に注意するようにも呼びかけています。アメリカ小児科学会によれば、現時点でアメリカで報告されている症例はこの年代の100万回接種に対し21~35人とのことです。殆どの症例は通常の治療で速やかに改善し、後遺症を残していないとされています。

(7/14追記)CDCによれば7月12日時点において、ファイザーあるいはモデルナのワクチン接種を受けた30歳以下の若年者から、1047例の心筋炎が疑われる報告があり、そのうち633例が実際に心筋炎を起こしていたことを確認したと発表しています。関連性の調査はこれからのようですがやはり発症者は思春期の男性に偏っているようであり、何らかの影響が疑われる状況です。ただしCDCは引き続きワクチンの有用性が副反応のリスクを上回るとして、対象年齢のすべての人に接種を強く推奨しています(追記ここまで)。

(8/9追記)21年6月時点でのアメリカの症例解析によれば、30歳未満の心筋炎報告数は100万件あたり40.6件とされています。新型コロナウイルス感染自体でも心筋炎を発症するリスクが有り、このリスクはワクチンによる心筋炎発症リスクを上回ることから、CDCでは引き続き若年者に対するワクチン接種を進めるべきとしています(追記ここまで)。

長期的なリスクに関しては現時点では不明です。しかし、不明=リスクが高い、というわけではありません。また、ワクチンの長期的な予後が不明なのと同様、コロナウイルスの長期的な予後もまだ未知数であることにも注意が必要です。ワクチンで起こる様々な反応は、その多くが実際にウイルスに感染したときに起こるものと同様であり、ワクチンで長期的な健康リスクが起こる可能性があるならば、新型コロナウイルス感染自体でも同様のことが起こるリスクが有ることを想定しなければなりません。

(7月14追記)新型コロナウイルス感染症の後に起こる合併症はLong COVIDあるいはPost-acute COVID-19 Syndromeと呼ばれ、その詳細はまだ研究が始まったばかりです。小児の研究もまだ始まったばかりですが、イタリアからの報告によれば、新型コロナウイルスに感染した129例の小児のうち、感染から2〜9ヶ月後にも何らかの症状が残っていた小児は52.8%であったそうです。主な症状は不眠、呼吸困難感、鼻詰まり、倦怠感、集中力低下、筋・関節痛などが報告されています。またこの研究の対象者のうち、感染から120日以上経過していた小児は68例でしたが、そのうちの29例(42.6%)に何らかの症状が残っていたそうです。(追記ここまで)

なお、ファイザーのワクチンで不妊症になるとの噂が主にSNSで拡散されていますが、これは全く根拠のない話です。治験の追跡調査でも妊娠に影響はないとされており、各機関からもワクチンで不妊は起こさないと声明が発表されています。https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/vaccines/recommendations/pregnancy.html https://www.uchicagomedicine.org/forefront/coronavirus-disease-covid-19/mrna-covid-19-vaccine-pregnancy-breastfeeding https://www.unicef.org/montenegro/en/stories/vaccine-against-covid-19-does-not-cause-sterility

新型コロナウイルスワクチンの小児における短期的な副反応

12歳から15歳を対象とした治験データの解析・追跡調査の結果が報告されています。全体の約90%に何らかの副反応が見られたとされており、かなりの高確率です。主な副反応の発生率をいくつか見ていくと、接種部位の疼痛が86.2%/78.9%(1回目/2回目、以下同様)、38℃以上の発熱が10.1%/19.6%、倦怠感が60.1%/66.2%、頭痛が55.3%/64.5%などとなっています。いずれの副反応も数日で改善したと報告されています。重篤な副反応は0.4%に認めましたが、プラセボでも0.2%に重篤な反応があり、FDA(アメリカ食品医薬品局)はワクチンとの因果関係はないと判断しています。また、前述の通り10代後半の男性は心筋炎を起こすリスクが指摘されています。

新型コロナウイルスワクチンの効果

成人と同様の効果が得られるとされており、90%以上の発症予防効果があるとされています。しかしこれは標準的な感染予防対策を撮っている場合の話であり、接種が2回終了したあともマスクやソーシャルディスタンスといった対策は必要です。感染自体を防ぐ効果も明らかになってきており、ファイザーのワクチンであれば2回接種後1週間経過すれば、感染確率を92%減少させると報告されています。また、接種者は感染しても排出するウイルス量が少なく、他人に感染させにくくなる効果も示唆されています。

(8/9追記)変異を起こしたデルタ株にはワクチンの効果が弱いと報道されています。実際にどれくらい弱いのか調べた研究結果が発表されました。それによると、ファイザーのワクチンの場合、2回接種後の従来型(アルファ株)に対する発症予防効果が93.7%に対し、デルタ株では88.0%だったとされています。思ったほど差はなさそうです。ただし1回接種のみでの効果はアルファ株で48.7%に対しデルタ株では30.7%で、比較的大きな差が出ています。速やかに2回接種を完了させることが重要なようです。

なお、ワクチン接種が進んでいるイスラエルでは2回接種しているのに感染する、ブレイクスルー感染が増えていると報道されています。デルタ株の影響とされていますがまだ情報が少なく、詳しい検討はこれからです(追記ここまで)。

各関係機関の声明

最後に、小児の新型コロナウイルスワクチン接種に対する、団体・政府機関の声明を紹介します。

日本小児科学会:http://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=374 健康な子供へのワクチン接種には、メリットとデメリットを本人と家族がしっかり理解し、打つ場合は接種前後の慎重な対応が必要、としています。また、小児に接する成人のワクチン接種が重要であるとしています。なんだか普段より腰が引けた対応です。

世界保健機関(WHO):https://www.who.int/news-room/q-a-detail/coronavirus-disease-(covid-19)-vaccines 小児は重症化のリスクが低く、接種の優先順位は低いとしています。副反応などのデータも少なく、まずはリスクの高い成人の接種を進めるべきとしています。世界的なワクチン不足も声明に影響しているようです。

アメリカ疾病対策センター(CDC):https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/vaccines/recommendations/adolescents.html 小児においてもワクチン接種のメリットはデメリットを上回っており、速やかにワクチン接種を受けるよう勧告しています。やると決めたらやりきる意思の強さを感じます。ちなみにアメリカでは生後6ヶ月以上の小児を対象とした治験が進行中だそうです。

イギリス予防接種合同委員会:https://www.bbc.com/news/health-57496074  なぜか公式発表は見つからなかったのでBBCの報道が情報源ですが、ファイザーのワクチンを12~15歳に認可したものの、接種プログラムに含めるかは未定で、おそらく当面の間小児には接種しないだろう、とされています。イギリスでは主にアストラゼネカのワクチンを使用しているので、ファイザーしか使えない年齢層には勧めにくいというのもあるかもしれません。

最後に

21年6月時点でなるべく最新の情報をもとに、当院での小児新型コロナウイルスワクチンに対する考えをまとめました。繰り返しになりますが、現時点では接種する・しないどちらが正解かわからない状態であり、どちらを選択したとしても誰かから非難されることはあってはなりません。接種した人もしていない人も、感染予防に努めてこのコロナ禍を乗り越えましょう。

今後も新しい情報が入り次第更新していきます。